日本の出稼ぎ問題はもう終わったのだろうか。

比較思想、文化叢書、「出稼ぎの社会学」、山下雄三、国書刊行会、昭和53年発行(1978年)
この本は私の親しくしている友人のお父さんの著書で、この本を紹介され、教えていただいた。アマゾンで購入し読んでみた。この山下雄三という方は、教育大学(現在の筑波大学)の農業経済学専門の教授というように聞いている。若くして亡くなった、と聞いている。

まず「出稼ぎ」という言葉が懐かしく響いた。しかし今はもう死語になっているのではないだろうか、などと思いながらこの本を手にする。この本の対象となる年代は昭和40年から50年くらいまでの間のことである。(私は昭和24年生まれだから16歳から26歳までの頃である。いわゆる60年代なのである。)この時期は高度成長が始まっており、日本の経済は急成長であった。 “日本の出稼ぎ問題はもう終わったのだろうか。” の続きを読む

大衆と市民の政治的違い

「大衆」と「市民」の戦後思想、藤田省三と松下圭一、趙星銀(ちょ さんうん)2017年発行、岩波書店

著者は韓国生まれで1983年生まれ、韓国延世大学卒、東京大学政治学科博士課程修了と裏付けには出ている。現在明治大学の講師である。現在37歳くらいか。さらに言えば女性である。

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民主主義とヒットラー

「現代民主主義  思想と歴史」権左武志、講談社メチエ、2020年12月発行

権左武志という人は、岩波新書「ヘーゲルとその時代」を書き,最後の方にマルクス主義の問題点をヘーゲルから論じるという事に可能性を感じた。そこにあるマルクス市民論の問題の展開をもう少し掘り下げてもらいたいという気持ちで彼の著作の動向を見ていたが、佳作の人である。既刊の著作は高すぎて読めないし図書館にもないので手に取ることができない。調度良く適当な入手可能な価格で講談社メチエから出版されたので手にする。 “民主主義とヒットラー” の続きを読む

中国知識人の自己理解の苦しさ

「思想空間としての現代中国」汪暉(ワン、フイ)村田雄二郎、砂山幸雄、小野寺史郎訳

岩波書店、2006年発行

汪暉(ワン、フイ)1959年生まれ、南京大学卒、精華大学教授、ワシントン大学、コロンビア大学、香港中文大学、カリフォルニア大学、ボローニャ大学などの客員教授で人気のある方のようだ。たぶん日本では他の本での翻訳はなく彼の著書としては日本初である。

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古くて新しいヴェーバー・マルクス問題

「ヴェーバー社会科学の基礎研究」内田芳明、岩波書店、昭和43年(1968年)発行

1923生まれだから、45歳の時の作品といえるだろう。
彼は、「ヴェーバー『古代ユダヤ教』の研究」(岩波書店、2008年発行)
のなかで我が研究史に書いているが、すでに学部の卒論が岩波の雑誌、大塚久雄のヴェーバー特集の「思想」に載った。またその一部が岩波から出たヴェーバー研究の共著として出されたというから、若くして才能を開花させてきたようにも思える。しかし本人は鈍才と思っていたようなことが書かれてある。東京商科大学(現、一橋大学)出身。

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資本論を今どのように読めるのだろうか

熊野純彦、マルクス資本論の哲学、岩波新書、2018年1月発行

マルクスの最近の流行
この本は、最近のマルクス流行の中の一冊であると言ってよいと思われる。このマルクスの人気は、アメリカの不動産を端緒として始まった世界的金融危機を背景として、日本では宇野弘蔵の「恐慌論」などが売れたという事もあり、続々と資本論関係、マルクス関係の本が出版されてきている。日本のバブルの崩壊やこの世界的金融危機などを見るにつけ、資本主義は安定していない、また日本の賃金格差問題、かつグローバリズムにより国家間格差が一層広がっていく状況が出ているため、ネグリのマルティチュードなどのこれまでのマルクス主義的革命を見直すマルティチュード(群衆、人々、ホワイトカラーを含めている)による革命の本が出版されもするのである。また彼らは「権力を取らずに世界を変える」という本も書いている。フランスの大蔵大臣であったジャック・アタリの「マルクス」という本もここ近年出版されている。またデヴィッド・ハーヴェイのマルクス経済学的な現状分析的な本も沢山出ている。

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日本の社会民主党解党の意味

「社会主義」マックス・ウェーバー、濵島朗訳・解説、講談社学術文庫、昭和55年発行(1980年)ウェーバーの1918年講演に基づく。

社会民主党の衰退、解党、解散について考える。福島みずほ党首がテレビに出ていたが、一人社民党でやっていけるのか?

社会民主党の解党の遠因

マックス・ウェーバーのこの本を今更ながら読んで、日本の社会民主党がこうなるのも仕方ないかなと思うところである。

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ロンドン塔に幽閉され刑死したトマス・モア。

エラスムス=トマス・モア往復書簡、沓掛良彦・高田康成訳、岩波文庫、2015年6月発行、(原著1499年から1533年までの50書簡)

初めに年代の確認

エラスムス30才から64才まで

トマス・モアは21才から55才までの現存する50の書簡集である。

9才差である。

1517年がルター、宗教改革始まる

1523,24年ツヴィングリ宗教改革スイスで始める。続いてドイツ農民戦争

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エラスムスという存在

エラスムス「平和の訴え」箕輪三郎訳岩波文庫1961年(原書1517)

初めに

この本の翻訳は箕輪三郎となっているが、途中で亡くなったため二宮敬氏が翻訳したものと考えられる。

また平和の訴えは、当時の戦争をつぶさに知っていたエラスムスだからこそかけたものでもあり、かつそのほかにも平和関連の著書は連続的に書いたものの最後のものだそうだ。

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国富論よりまずこの本を

法学講義、アダム・スミス、水田洋訳、岩波文庫、全500ページ、2005年発行

(原書は1748年から51年にグラスゴウ大学での冬学期の講義の学生のノートから)

初めに

この本は経済学者として世界的に著名となった古典、国富論(=諸国民の富)の作者であるアダム・スミスである(1723~1790)この国富論は現代でも経済学としての学問を切り開いた先駆的な書であり今なお経済学徒はこの人の本を勉強するのである。「国富論」も有名だが「道徳感情論」も有名である。然し彼のこの2つの著作は長い。この法学講義は岩波文庫一冊分である。それでも500ページという分厚さとなっている。現在ヘーゲル(1770~1831)の年次別の講義録というのもあり学生のノートも非常に重要であるということになるかもしれない。このアダム・スミスの講義録もこのように何部か残されているようである。ある人によると当時の出版物は国王の許認可が必要なので文章は固くなりがちであり、言えないことも多かったようである。しかし講義録となるとまた授業風景が浮かぶような感じもするのである。そこでは現在のように録音機もないのでデータを公開されるような心配もなく話すという事になる。学者の本音が聞かれるのである。

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