終わらぬ民族浄化セルビア、モンテネグロ、木村元彦、集英社新書、2005年第一刷出版、2010年第二刷発行
本の内容
米軍指導のNATO軍が1999年ユーゴを空爆した。その後コソボ問題は一応の解決を見たかのようである。ユーゴが解体し、国名も変わった。今誰もこの問題を取り上げていない。しかしこのコソボの紛争の実態はいかに悲惨であったか、そして大きな問題を残していった。その後の6年間をこの地で追いかけたルポルタージュである。著者は、その後起こった9.11やイラク侵攻があってコソボ関連のニュースが途絶えたことに危機感を抱き、まだ何か終わっていないことがあるという実感をもとにかの地に行き取材した内容である。コソボ紛争後の実情について貴重なことを語っている。旅行会社などは現在この地への旅行案内を出しているが、実際はどうなのだろう。
私の関心からすれば、イビチャ、オシム監督の出身地の問題という事だ。彼の発する鋭い言葉には共感するものが多い。NHKでやっていた柔道のオリンピック選考会の話(9/15)で阿部兄弟の敵となるリオ金メダリストのM・ケルメンディという女性柔道家の出身地でもあり、またテニスのノヴァク・ジョコビッチその他サッカー選手が多いところでもある。こういう紛争地域にかくも有名な選手が多いという事が不思議でもある。また「サラエボの花」という映画を見た。この映画は、問題が今なお残っているが希望はある、というメッセージがこもった映画である。こういうことを知れば知るほど、コソボの紛争とそれ以後のことを知りたくなった。
現代の国家観
現代の国民主権国家という近代の思想が生んだ国家観、そこを目指して近代国家は生きてきた。それは言語の同一性、民族の同一性、宗教の同一性という事を非常に重んじた考え方であった。昔に戻れないまでも神聖ローマ帝国は宗教も民族も言語もなんでもよかった。ウェストファリア条約以後こういう問題が引き起こされてきた。そういうことからすれば歴史の後退現象という事もいえる。しかしこの問題は今いたるところに発生している。北アイルランド問題、シリアの内戦、IS国問題、ロヒンギャ問題、中国モンゴル、ウイグル、チベット民族問題、クルド族問題などさらにこれから起こりうるテーマになってしまった。
背景にある欧米の戦略
軍産複合体の米国、英国の戦略を背景として、欧米の戦争好き、人殺し好きな風潮というもの。正義の名で殺人をやり続ける恐ろしい現実。特にアメリカの思考がこういう時の戦争に明らかに反映される。世界はアメリカに牛耳られているという事があからさまになるがこういう一面をアメリカはうまく情報操作で隠していくことができる。国連や欧米の論調、ハーグ戦争犯罪法廷(ミロシェビッチを裁判)などを使えるだけ使っていく。欧米知識人をはじめとしたソフト戦略も彼らの真骨頂である。この本では独のギュンター、グラス(p233)大江健三郎(p240)や米スーザンソンタグ(p241)が批判されている。その一方ペーター・ハントケは多くの世界の知識人から批判をされているが、欧米の世界戦略の本質を逆に批判している。ハントケという人を知った価値は大きい。この本を読んだだけのことはある。(オーストリアの作家、学者「空爆下のユーゴスラビアから」その他著作多い。)
すでに香港デモでアメリカからの資金がでているというかなり真実な情報が出ている。この問題は根深すぎて非常に問題多いと思う。
知っておくべきこと
この本の詳細は省く、いろんな人名、地名、団体、略称、などを知っていないとむつかしくて読めない本でもある。
なお今でも継続している問題として、コソボにおけるアルバニア人によるセルビア系の殺人、虐待、虐殺があると言われている。現在非常に問題になっているのはレイプであり2万人いると言われている。その方たちが公に声を出し始めているという。また、その後KFORはアメリカがコソボに打ち込んだ劣化ウラン弾の回収をしていないと指摘されている。(放射能汚染がすすんでいるという。)パンチェボは空爆により化学コンビナートの工場が破壊されそれによる世界最大の環境破壊が起こった。
など、など。ここの話は苦しい。簡単には、この民族間の敵対感情といいうものはなくならないだろういう印象である。それは日韓問題など見ればすぐわかる。これを戦略的にあおって利益を上げる人達、団体、国がある。(香港、ベネズエラの大統領問題など。この背景はニュースにならない。)
キーの略語
デイトン合意
KLAコソボ解放軍→NLA民族解放軍
UNMIK国連コソボ暫定行政ミッション
ICMP国際行方不明者委員会
KFORコソボ治安維持部隊
TMK;コソボ防護隊
OSCE全欧安全監視機構
LDK;コソボ民主同盟
1300人協会
国際連合安全細湯理事会決議1244
UNCHR国連難民高等弁務官
ウイキペディア;コソボ地位問題、これにはその後のコソボ問題が詳しい。