パレスチナ人とは何か?サイードから

エドワード・W・サイード著「パレスチナとは何か」写真ジャン・モア、島弘之訳、岩波現代文庫、2005年発行(原著1995年岩波)

エドワード・w・サイードとは
この本は、パレスチナ出身アメリカで教鞭をとっていた世界でもっとも著名な思想家の一人である、エドワード・サイードの本である。彼のもっとも有名な本は「オリエンタリズム」(上・下、平凡社)である。「オリエンタリズム」は今もなお世界中で蔓延しているヨーロッパ中心主義(欧米という西側)という世界の視点を明確に問題視したのである。マルクスでさえ彼の批判にさらされている。欧米中心史観、欧米中心の世界観というものを徹底的に批判したものである。決してそのヨーロッパの文化遺産を否定したのではなくその視点を批判したのである。

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日中戦争の中で中国人は何を感じたか?

陳舜臣、「桃花流水」上、下、中公文庫

(原著発行は昭和51年1976年朝日新聞社から)

この本の時代

日中戦争の始まりのころ柳条溝事件、盧溝橋事件などが起こった頃をバックグランドとして書かれている。内容は大雑把に言えば、中国の富豪である程家の主人が中国の上海で謎の死を遂げる。その娘の碧雲という若い美人の女性は、日本の知り合いの神戸在住の金持ちに引き取られる。その娘が、親戚が台湾にいてその結婚式に出席することから上海、北京まで行くことになる。そこで分かったことは、父親は死んだことになっていたが実は生きていたということから、衝撃的な出会いがある。その父親は抗日運動の指導者であった。娘はその父親の仕事を手伝っていく。この物語は中途で終わっており、その中国側の抗日運動の気運をよく伝えている。中途で終わっているが、中国人の日本に対する気持ちはよく理解できるように書かれている。この本はサスペンスではなく歴史小説、歴史文学ともいえるのではないか。

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第二次世界大戦のドイツとソビエトの戦争の意味は?

「独ソ戦ー絶滅戦争の惨禍」大木毅著、岩波新書、2019,7月発行
2020年の2月時点あたりで12万部売れているということで新書大賞を受賞した本である。帯にもそう書いてある。計算すると一億円以上の売上である。新書一冊でこれだけの売り上げがあるということは大変なことだ。現在であれば、さらに増えていると予想される。 “第二次世界大戦のドイツとソビエトの戦争の意味は?” の続きを読む

ウェーバーと最強の学問、統計学との関連

「社会科学と因果分析-ウェーバーの方法論から知の現在へ」佐藤俊樹、岩波書店、2019,1月発行

この本は結構むつかしいというか統計学、確率論の知識がないと読めないところも多い。そしてこの本はどういう人向けに書かれたのか、これもちょっとわかりずらい。社会科学を目指す若い人向けの本なのか、社会科学とはこういう科学的手法を使っているのだと説明したいが故のことなのかそれともウェーバーの方法論は現代に通じる社会科学の方法論でこの方法論に関する今までの多くの誤解がウェーバーの書を誤読させてきた、ということなのか、あまり判然としない。ウェーバー理解が本当に間違っていたのだろうか、という疑問が出てくる。

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上官の命令は絶対であった時代

ジョン・ダワー「敗北を抱きしめて」下、岩波書店、2001年発行、2002年までに11冊

この本はジョン・ダワーという日本研究の歴史、政治学者の人の手になる。彼は1938年生まれというから現在83歳マサチュセッツ工科大学教授と奥付には書いてある。彼は日本の翻訳の中では「吉田茂とその時代」(上、下)TBSブリタニカや「転換期の日本へ」共著、NHK出版、「忘却の仕方、記憶の仕方」岩波書店、「アメリカ暴力の世紀ー第二次大戦以降の戦争とテロ」同出版社などがある。これらの翻訳の中では一番読みやすい本ではないか。

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スンニ派、シーア派を知る前に

「イスラーム思想史」井筒俊彦、中公文庫1991年発行(原著は1941,1948.1975年に書かれたものを一冊にした。)

なぜこの本を読むのか
アラブ諸国は、スンニ派、シーア派と別れているという。そのことによる政治的対立もある。シリアはシーア派でイランとは親しい。しかしサウジアラビアとは敵対関係である。一応そういう対立のあることは置いて、実際どんな教義の違いがあるのだろうか、という素朴な疑問からこの本をとる。多くの人もこの色分けについて何が違うのかというような疑問を持っているだろうと思うが実際のところ辞書的説明では非常にわかりにくいといえるのではないか。そういう問題意識を持って読み始めるが、実のところその違いについてはほとんど触れていないのである。 “スンニ派、シーア派を知る前に” の続きを読む

米中覇権戦争の中でのトルコの政治的選択

「エルドアンのトルコ」ー米中覇権戦争の狭間、中東では何が起こっているのか、松富かおり著、中央公論社、2019,7月発行

この本はトルコを一応は中心としたケーススタディをしながら世界の問題を扱った本といえよう。簡単に言えば、米中覇権戦争、あるいは新冷戦といわれる今の状態の中でトルコは政治的にどういう動きをしようとしているのか、ということが書かれている。

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なまこ交易からアジアを理解する

鶴見良行「ナマコの眼」筑摩書房、ちくま文庫、1993年第一刷発行、

この本は、前回の「エビと日本人ⅱ」の村井吉敬と同じグループで書かれた「バナナと日本人」の著者である鶴見良行が書いた本である。

(このブログを読んでる方の中にはアメリカやオーストラリアの方もいるようで、当地にもナマコの料理があるのかもしご存じであればメールでもいただけると感謝です。)

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食卓に上がる食品から世界の構造を知る方法

村井吉敬、「エビと日本人ⅱ」ー暮らしの中のグローバル化、岩波新書、2007第一刷発行(私の読んでる本は2016年第9刷で結構売れている新書の一つである。)

この本は、鶴見良行の「バナナと日本人」などと同じグループの作品で、「エビと日本人」岩波新書1988年発行の続である。鶴見良行の「ナマコの眼」などがある。鶴見良行氏は94年68歳で亡くなられた。彼は小田実などのべ平連などにも参加していた。今はカツオ、かつお節研究会というのがあるそうだ。バナナもナマコも国際商品である。この具体的商品を通じてアジアの貧しさというものの正体を解明したいというのが彼らのグループの本意だったようである。要するに大所高所の大学での理論的なもので「世界」がわかるか、という疑問から、ミクロ世界のフィールドワークを通して「世界」を理解しようという手法をとった。鶴見氏には「フィールドワーク」という本もある。鶴見俊輔、鶴見和子はいとこである。鶴見氏のことを書くわけではなく村井氏の関係としての枠組みを知っていただきたかった、ので簡単に説明を入れた。

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ガリレオ裁判の現代的意味

ガリレオ裁判、サンティリャーナ著、武谷三男監修、一瀬幸雄訳、岩波書店、昭和48年発行(1973年)625ページ、原著1955年シカゴ大学発行

岩波の結構古い本です。

この本はガリレオの異端宗教裁判の経緯を数々の資料から物語ったものである。

ガリレオという人がどんなことを発見しどんな発明をしたかはあまり言及されていない。だからここでは科学史的見方はほとんどないといってよい。

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