食卓に上がる食品から世界の構造を知る方法

村井吉敬、「エビと日本人ⅱ」ー暮らしの中のグローバル化、岩波新書、2007第一刷発行(私の読んでる本は2016年第9刷で結構売れている新書の一つである。)

この本は、鶴見良行の「バナナと日本人」などと同じグループの作品で、「エビと日本人」岩波新書1988年発行の続である。鶴見良行の「ナマコの眼」などがある。鶴見良行氏は94年68歳で亡くなられた。彼は小田実などのべ平連などにも参加していた。今はカツオ、かつお節研究会というのがあるそうだ。バナナもナマコも国際商品である。この具体的商品を通じてアジアの貧しさというものの正体を解明したいというのが彼らのグループの本意だったようである。要するに大所高所の大学での理論的なもので「世界」がわかるか、という疑問から、ミクロ世界のフィールドワークを通して「世界」を理解しようという手法をとった。鶴見氏には「フィールドワーク」という本もある。鶴見俊輔、鶴見和子はいとこである。鶴見氏のことを書くわけではなく村井氏の関係としての枠組みを知っていただきたかった、ので簡単に説明を入れた。

エビと日本人ⅱの内容

これは前回の「エビと日本人」の時に行った先とか、その後のエビの状況は変わったのかとかデータを新しくするなど、また現地の人々の様子の変化、あるいは、このような考え方を理解して若い世代が何かできるのかというような事である。最初の時の本とは違ってあまり緊張感はなく、話が始まる。

私としては

この書が書かれている地域は大体がインドネシアである。その他の地域もあるにはあるがこのインドネシアが主たる地域であり、そのインドネシアと言っても大体は地図で言えば右サイド、東側が多い。バリ島のスラバヤ近くのシドアルジョという都市が話題の中心である。インドネシアは西から東へ長く連なっている島でできている国である。西はインド、マレーシア、シンガポールに近い、東はカリマンタン、スラウェシ、そしてパブアニューギニア、オーストラリアとなる。

私自身はジョクヤカルタという大都市に一度行ったきりでインドネシアを知っているというわけではないが、あの暑い国に何か親近感を覚えていた。そこにシャープの家電工場があり仕事で行った。日本人も10数名いたようだ。当時は台湾の会社にシャープが身売りする頃だったので会社としてもなかなか厳しい状況だった。商社の人たちもその中で仕事をしている。もはや猛烈社員ではない時代の人たちである。安く作って日本に持ってくるという時代は終わっている。安い賃金による収奪というよりも、雇用の観点から見て良い方向のように見えた。彼らは現地化、現地でどれだけシャープというのブランドを売っていけるかという勝負を韓国のメーカーとしていた。彼らは我々くらいですよ、いろんな島までメンテナンスに行けるのは、と自信をもって語っていた。ほかの外資のブランドは問屋に卸すだけでそんなことはしていないという。

そんなこともあり、何度でも行ってみたいアジアの国の一つである。マレーシア、シンガポール、インド、問題のミャンマーなどは非常に近い。

もう一つこの本を読むのは私自身がウナギの養殖に関係していたということもある。会社に入って2年目くらいに新規事業課というところへ異動となったのだが、そこですでにやっていた工場の温排水での養殖事業としてウナギの養殖を会社がやっていた。その担当になった。これは大変な仕事であったが、5,6年くらいはやっただろうか。相当に詳しくもなった。その問題とここで語られているエビの養殖問題はいろんなところで似ているのである。我々の時代は台湾との競争、その後は中国との競争があって、台湾では水産会社が現地で加工して、冷凍して日本の倉庫に在庫する。夏にはそれを売りさばく。しかし売れ残るものもある。そういうものは翌年スーパーには安く売りだされる。当の工場でも病気が発生し何万匹とウナギを処分せざるを得なかったことがある。またフランス産の稚魚というのが一時出回った。これはしかしうまく育てることができなかった。そういうこともありこのエビの話は親近感がある。またそこから国際商品としてのこの種のものをどのように扱い本質的な理解へ進むことができるのか、そういう学問的処理には非常に興味を感じるところであった。

内容

前置きが相当長くなったが、テーマはマングローブとエビの養殖である。

このインドネシアを中心として海岸には熱帯特有のマングローブがある。このマングローブを伐採して養殖池を作るというのがインドネシアのやり方であった。そのために津波などの被害がより一層ひどくなったようである。またこのマングローブは金のなる木ということだ。それは木炭にして日本へ売るということだ。そのためもあって伐採の比率は増える一方のようである。このことはフィリッピンやベトナム、タイでも同様である。

また、養殖池のほうはエビといってもブラックタイガーが前著の時にはほとんどだったが、高密度養殖のために病気が蔓延し、台湾でほぼ全滅した。その後インドネシアでも病気が発生し今ではニカラグアで生まれた原産種のバナメイというエビがほとんどとなっている。また前著の時には日本が世界最大の輸入国であったが、その地位は大きく落ちたと書かれている。今では7,8位くらいか。その理由の一つは、日本人の家庭料理としてのエビの料理はほとんどがフライか天ぷらだそうだ。現代の家事をつかさどる方はこのてんぷらとフライという油を使う料理を非常に嫌っているそうだ。そのためにほとんど伸びないとニッスイの担当者の言。ところが中国は経済成長と伴って非常に増えてきている。またアメリカや諸外国は料理の方法が多種多様であり、そのために伸びているようである。

ここでの問題は、一つは労賃の問題である。非常に安い。これが書かれた当時の価格で一日125円というのがある。それに政治誘導型の産業構造により政治家の一族が大企業を経営し、こういう養殖事業にも手を出している。そのことで大規模化が図られると自然破壊が一層深刻になってくる。またこの高密度養殖は薬を使うことが多い。特に抗生物質。これがある特定以上になると人間にも害をあたえることになるという。当然である。

現在厚生労働省でも輸入品の検疫を行っているがその種のものが発見される例もある。

読後に、世界を知るために

エビという一つの商品を通して、世界を知る。世界を知る方法を見つける。ある意味方法論である。適切な商品があればもっとよりよくわかってくるということも言えるが、これはバナナに次いで世界の構図がよくわかるものではないかと考えられる。インドネシア、タイ、ミャンマー、マレーシア、バングラディシュ、インド、パキスタンなどという国々は貧富の格差が大きく底辺労働者は毎日、毎日大変な思いで働いている。それが、彼らのとったエビは先進国では10倍以上の値段で売られている。エビで働いているものは食うや食わずの生活、それを食っている人は豊かな人たちである。この陰影を明確にしてきたということはこの村井氏のおかげである。問題はあるだろうな、というあいまいな想定よりもより具体的なアジアから先進国という明確なデータで我々に教える。それこそフィールドワークである。インタビューとデータの採取である。いちいちの場所まで行き聞いてみて感じたことの集積である。非常に現代の問題がわかりやすい。我々は何をしているのか。これがわかる。ここに書いてある事がすべてではないにしても自分なりにいろんなことを調べるきっかけになるだろう。

技術研修生のベトナム人が日本で捕まっている事件などある。こういうことも実際よく掘り下げて自分で調べてみなければ実態がよくわかってこない問題だろうということがこの本を読んで痛く感じるところである。

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