戦争と貧困がいつまでもなくならない理由がわかる。

「ショックドクトリンー惨事便乗型の資本主義の正体を暴く」、上、下巻、ナオミ・クライン著、岩波書店、2011年発行2013年までに9刷、幾島幸子、村上由見子訳、原注までいれると760ページ。

この本の概略
この本は惨事便乗型資本主義複合体という視点で世界の政治、経済活動を切って見せた書といえる。ある意味グローバリズムの問題点を明確に描いている。著者30代の作品とは思えない力作である。
世界で起こっているショック型惨事、津波(日本やスリランカなど)、地震、テロ、局地紛争、民族紛争、イラク侵攻、民主革命(ソビエト崩壊、社会主義崩壊、南アのアパルトヘイトからの解放など)などに乗じて、その解決プロセスと称して、その地域の国民または民衆を相手にせず、グローバル資本(ほとんどアメリカ、イギリス)を投じて大きな利益を強奪していく戦略とその現実、帰結について書かれている。これだけ詳細な記述は私はまだ見ていない。 “戦争と貧困がいつまでもなくならない理由がわかる。” の続きを読む

宇宙の闘いとは何の比喩だろう?

「三体」劉慈欣、早川書房、2019年7月発行、1900円
この本は中国で絶大な人気となったSF小説である。3部作という事であるがこの本の販売累計数は中国国内だけで2100万部という、日本では考えられない恐るべき数字である。また英訳も出てこれも相当な販売数となった。(オバマがインタビューでこの本を愛読していることに言及したり、アマゾンが10億ドルをかけて映画化する計画があるという。また中国も文化戦略としてSFを取り上げたという。)
SF小説好きにはたまらないような物語であるだろうが、SF特有の科学的なキーワードの意味を知らないと全く読めないような感じもする。
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ハルビンの思い出

「哈爾浜から来た留学生」、郭雁壮、オクムラ書店、1993年発行(推定)
この本は、多少題名とは違って、哈爾浜から上智大学へ留学する予定となるまでの郭さんのふるさと中国哈爾浜のでの生活の思い出である。
まず、哈爾浜(ハルビン)はハルピンではなくてビンと発音する。これは上海のゴルフ場で上海空港近くに浜海ゴルフクラブというのがあるが、これも浜はビンと発音する。
郭さんというのは女性で、哈爾浜でテレビ局で仕事をしていた人で中国の発展と問題を垣間見るにテレビ局での仕事の悩みやひいては中国の多種多様な問題をもっと突き止めたいと考え日本に留学するところのいきさつまでがこの物語である。 “ハルビンの思い出” の続きを読む

サラエボの知性、イビチャ・オシム

「イビチャ・オシムの真実」著者ゲラルト・エンティンガー、トム・ホーファー解説木村元彦、翻訳平 陽子、出版社エンターブレイン、2006年12月4日発行

サッカーのことは私はよく知らないが、オシム程彼に関する本が出版されたスポーツ人は数少ないのではないか。(ざっと調べただけでも25冊くらいはある。)彼の発言はサッカーを知らない人でもうなづける。その非常に魅力的な発言の秘密がこの本には分かるようになっている。以前からこのオシム監督には興味があったがサラエボのことがわからなければ理解するのがむつかしいだろうと思っていた。
それに日本人のサッカーファンにしても最初はオシムのことを知らなかったようだ。ジェフ市原の監督のために、彼が成田空港に降り立った時に出待ちしていたのはただ一人のドイツ語の堪能な日本人女性だけだったという話がある。 “サラエボの知性、イビチャ・オシム” の続きを読む

英国離脱とエマヌエル、トッド

「問題は英国ではない、EUなのだ、21世紀の新.国家論」、エマニュエル.トッド、堀茂樹訳、文芸春秋(文春新書)
この小さな本は問題を沢山はらんだ本といえる。
このエマニュエルトッドという人はフランス人、歴史人口学という学問の専門家である。(日本の慶応大学には速水融(名誉教授)という学者がいて彼も歴史人口学の大家でかつ友人という。) “英国離脱とエマヌエル、トッド” の続きを読む

批判される経済学者

奇跡の経済教室、基礎知識編、中野剛志著(目から鱗が落ちる、平成の過ちを犯さないために、経済常識が180度変わる衝撃)2019年4月発行、ベストセラーズ発行
1600円

1、なぜこの本を読むか
財政破綻問題などと言われている政府がデフレ脱却のために異次元金融緩和をしている日銀を批判的に検討している。その前編で7月に対策の話が来るようだ。
そういう興味もあるが、ここではかなりの人が実名で批判されている。こういう本も珍しいので非常に興味を掻き立てられる。 “批判される経済学者” の続きを読む

極寒の収容所で学ばれたプルースト

「収容所のプルースト」著者;ジョゼフ・チャプスキ、2018年発行、出版;共和国
この本は1940年から41年にかけてソビエトのグリャーゾベッツ収容所で、冬の間にチャプスキが極寒の中でポーランド人将校らに講義した内容が訳されたものである
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