「三体」劉慈欣、早川書房、2019年7月発行、1900円
この本は中国で絶大な人気となったSF小説である。3部作という事であるがこの本の販売累計数は中国国内だけで2100万部という、日本では考えられない恐るべき数字である。また英訳も出てこれも相当な販売数となった。(オバマがインタビューでこの本を愛読していることに言及したり、アマゾンが10億ドルをかけて映画化する計画があるという。また中国も文化戦略としてSFを取り上げたという。)
SF小説好きにはたまらないような物語であるだろうが、SF特有の科学的なキーワードの意味を知らないと全く読めないような感じもする。
内容
三体というのは、体のことではなくて、天体のことである。3天体という事だ。話の流れは、文革で徹底的に科学を批判されたインテリの女性がその能力が非常に高いゆえに非常に低い地位で、ある科学的な研究(地球物理学、異星人研究、宇宙のノイズを拾う仕事)に取り組まされていた。しかし彼女は、文革という過酷な科学の否定、知識の否定を経験(父親が殺される)してこの救いようのない地球(中国?)という問題を背負った。そこでほかの天体にある科学的に最も進んだ異星人にこの地球を破滅させてもらおうと長い間を考えていた。ついにほかの天体からの異星人から応答を聞き異星人こそこの世界の暗い闇を打破できるはずだという事を固く信じて、三体協会を組織してこの世界を破滅させようともくろむ。いろんな科学技術を駆使してそこまでたどり着くわけである。しかし異星人のほうからすれば、地球文明というものは恐るべき力を持っていて理想の大地である。彼らはこの異星人にとっては逆に大変な脅威である。そのために地球の科学の発展を阻止しなければならない、という状況でこの一巻は終わる。(なお、文革の時、紅衛兵だった少女、今は30過ぎのお姉さんが逆に批判される場面がある。これもありやと思わせられる。)
本当に面白いのか
この本がなぜそれほどまでに面白いと言われたのかははっきりしない。自分としては非常に面白いとは感じない。どうも2巻、3巻を読まないといけないようだ。(まだ翻訳はない。2020年という)SFというものに関心がないからか。理解力がないためか、中国特有のもののためか、しかしヒュウゴー賞という世界的な賞も取った。再読の必要があるかも。
政治的な面
しかし、この本の政治的な言葉の数々は非常によくわかる。
これは中国の政治をそのまま批判しているようなところがある。文革はすでに公に批判の対象となっているから問題ないとしても、この科学の時代になんで共産党なんだ、という声が紙面から響き渡ってくるような本である。一番問題にしているのは文化的自由。
中国人の持っている理想社会のイメージがそう簡単に現在作れない。それを地球外のところにとんでもない解決を見出すしかない、という大衆の欲求がこの本には詰まっていると考えることはできないか。宇宙というか空というか天というものを見上げるしかないのか、そこに中国人の閉塞状況を見るのは僕だけではないだろう。(他からの力を借りるしか中国人は解放されない、というように読めてくる。そういう意味では黙示録的という事かもしれない。)