60を過ぎてからの海外留学

60歳からの外国語修行、メキシコに学ぶ、青山南著、岩波新書、2017年発行

この本は何が面白いか
60歳という年は人生の終わりと思っている、という事それにもかかわらず、さらにメキシコに行ってまでして語学の勉強をする意味があるのか、という問い。ただしこの著者はある意味翻訳家でかつ大学の先生でもあるので本来的にはスペイン語というものを学ぶ必要がある人でもあった。(特に米文学はとみにスペイン語が突然小説の中に使われてきている。スパングリッシュという言葉があるくらい)しかし確かに人生の終わりに近い人が語学を学んで何の意味があろうかという気持ちはぬぐえない。そう思う一般の人たちをも想定して書かれている。
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文人の恐るべき戦争体験

新・日本文壇史、第6巻文士の戦争、日本とアジア、川西政明著、2011年発行全10巻岩波書店刊
伊藤整の日本文壇史の精神を引き継ぎ、夏目漱石から井上靖の死までを扱い日本の文壇の実像を示すと奥付には書かれている。

この巻はこの10巻の中でも異色である。作家と戦争をテーマにしている。 “文人の恐るべき戦争体験” の続きを読む

李鴻章と日本への長い恐怖心

「李鴻章-東アジアの近代」、岡本隆司、岩波新書、2011年発行
この本は李鴻章(1823-1901)が生きていた、清末(清;1616-1912)の時代に焦点を合わせて、李鴻章を軸として書かれた中国史である。西太后のいた時代である。

1、日本との関係がよくわかる。
このあたりの中国史を読むと日本との関係については非常によくわかる。日清、日露戦争から、満州事変、盧溝橋事件から始まる中国との戦争、そして第二次世界大戦への道程などについての基本的な、そして基盤的な理解を得ることができると思う。清末の中国史というのは、非常に複雑でありかつ事件が多く、 “李鴻章と日本への長い恐怖心” の続きを読む

人生が闘いである人へ送られた小説

レヴェナント、蘇りしもの。マイケル・パンク著、早川書房、2016年発行
この小説は1823年9月1日に始まり1824年5月7日に終わる。だから秋から冬、そして春に向かう寒い時期の話であり実話である。人生が苦しくともあらがい、もがき、地を這い着くばかりの戦いとなってもなお自分の力を信じて生き抜こうとするすべての人に贈られた物語だ。
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コソボを理解するにはこの本を読むしかない。概論より人の声を。


終わらぬ民族浄化セルビア、モンテネグロ、木村元彦、集英社新書、2005年第一刷出版、2010年第二刷発行

本の内容
米軍指導のNATO軍が1999年ユーゴを空爆した。その後コソボ問題は一応の解決を見たかのようである。ユーゴが解体し、国名も変わった。今誰もこの問題を取り上げていない。しかしこのコソボの紛争の実態はいかに悲惨であったか、そして大きな問題を残していった。その後の6年間をこの地で追いかけたルポルタージュである。著者は、その後起こった9.11やイラク侵攻があってコソボ関連のニュースが途絶えたことに危機感を抱き、まだ何か終わっていないことがあるという実感をもとにかの地に行き取材した内容である。コソボ紛争後の実情について貴重なことを語っている。旅行会社などは現在この地への旅行案内を出しているが、実際はどうなのだろう。 “コソボを理解するにはこの本を読むしかない。概論より人の声を。” の続きを読む

saraeboの花

2006年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞、監督、脚本ヤストラ・ジュパニッチ
イビチャ・オシムのキャッチコピーがついている。
「人類は二度と決してこのような悲劇を一時も、如何なる場所においても起こしてはならない。この映画をできるだけ多くの人に見てほしい。」
この映画はさほど面白く始まるわけでもない。
会話が多くもない親子、母と娘の物語。サラエボの紛争後にどんな状況が起こっているのかをほうふつとさせる。映画の作り方としてはうまい。
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