レヴェナント、蘇りしもの。マイケル・パンク著、早川書房、2016年発行
この小説は1823年9月1日に始まり1824年5月7日に終わる。だから秋から冬、そして春に向かう寒い時期の話であり実話である。人生が苦しくともあらがい、もがき、地を這い着くばかりの戦いとなってもなお自分の力を信じて生き抜こうとするすべての人に贈られた物語だ。
1820年代ミズーリ川上流(ミズーリ川といっても源流に近いカナダ国境近辺、ミネソタやファーゴ、ノースダコダといった近辺の山奥の話である。)で毛皮交易のための罠猟師をしていた一人のヒュウ・グラスという人物の物語である。この小説の筋書きは裏切りと復讐という事が表の基調であるが、本来は人生を抗い、もがき、生き抜き、勝ち取り、自分のありったけの力を出し切って生きることの希望をつかみ取る行為そのものがテーマである。
H・グラスはそのミズーリ上流でクリズリーというでっかいクマに襲われて、半死状態になる。毛皮の罠猟師の一行からは邪魔だという事で捨てられた。その一行から二人選ばれて彼が死んだときには葬式をしろという隊長(ヘンリー)から言い渡されていた。そのため彼らはH・グラスが瀕死の状態の中少しの看病と死んだときには墓を作って葬れという命令のためにお金まで受け取る。しかしその二人は彼が死んだことにして置き去りにする。彼の持っていたライフルやナイフその他生きるために必要な道具一切を持って行ってしまった。ここから彼は、大変な思いをして足が自由に動くまでは這いずり回って冬の雪の中、川の中を生き延びた。その間インディアンに襲われたり、助けられたりして生還した。生き返って復讐に燃えるという物語である。復讐は成功しなかった。
生きんがための知恵と知識と行動と復讐するという心情のエネルギーと持てる体力のあらん限りの力を駆使し冬の酷寒な状況の中で、あふれるばかりの生への執念の戦いが繰り広げられる。
この本は映画になった。見た人もいるだろう。映画とこの本では細かいところや結末などがちょっと違うが、いかにもこの本の底流をなしている思想は明らかに同じものといえるものだ。
また、著者も言っているが、これは実際にあった物語で実話である。細部は多少の作り話があるが基本線は実話だ。またこのH・グラスという人物に関してはほかの研究や伝記がある。
この本は、生への執着、生きんがためのエネルギーが充満し、噴出している。中身は読んでもらえれば、本当に面白い。人生が戦場となってる人にはぜひ読んでもらいたい。
詳細は語りつくせない。大人の小説である。
この小説の背景が非常に重要と思えるので、手短に書きたい。
1、ゴールドラッシュ(1848年カリフォルニアで金鉱発見を機に始まる。)とインディアンといういわゆる西部劇の構図と比較するとわかるが、この西部劇の時代が始まる前の一獲千金を夢見る人たちが会社を興して毛皮(1820年代最盛期)をとるためにミズーリ川上流へと行くのである。
この毛皮交易は17世紀あたりからヨーロッパへの輸出用として貴重なものであったらしい。またインディアンの重要な交易品として長く続けられていた。白人も毛皮を取り出してインディアンとの戦いとなる。しかし乱獲がたたって1820年代末には最盛期を過ぎてしまう。その後は西部開拓時代となりゴ-ルドラッシュが続く。
2.ミズーリ川とは全長4000キロだそうだ。メキシコ湾からカナダ国境近くまでを全米をほぼ南北に垂直に横切る川であり、ビッグホーンというアメリカでもひじょうに高い山のそばでの出来事である。ミシシッピ川もほぼ平行に走っている。
その他にイエローストーン川、ノースプラット川などが出てくる。アメリカ北西部カナダ国境際である。