プロセス主義の重要性

「ゴルフ『ビジョン54』の哲学ー楽しみながら上達する22章」ピア・ニールソン、リン・マリオット、ロン・シラク、村山美雪訳、ランダムハウス講談社、200611月発行

LIVゴルフとPGAの和解の日に

私はゴルフをするが、ゴルフをしない人、ほかのスポーツをする人、あるいはビジネスで困難な状況にいて何とかしたいと思っている人には少し役立つ本ではないか、と思った。また私の趣味で、革の手帳を作ってメルカリやほかの所で売っているが、自分は革細工のプロではないのである人のアドバイスもありメモ帳の使い方を解説して買う人へのサポートにならないかと考え、冊子をつけて販売している。手帳術のような物ではあるが、過去50年前くらいからの知的生産技術に関する本(梅棹忠夫以来、岩波新書)についてはハウツー本まで含めて結構読んできたのでそれを並べてふりかえるのもいいかなと思って書いてある。一か月に一回くらいは改訂版を出さざるを得ないほどではあるが、ビジネスマンとしてあるいは知的生産を目指す多くの人に役に立つ考え方と思っている。

そういう改定作業中に重要なことを思いついた。プロセス主義である。会社の人事考課などはプロセスを重視しているなどということが私の現役時代には言われていた。またそういう書式のものもあり人事に提出することもあった。そういう意味のプロセスと重なるところもあるが、重ならないところもあり具体的に何がどう違うのかは、当時のプロセスという言葉に何を込めていたのかが、判然としない。しかし、仕事で結果を出さなければならないということがたくさんある。その経験から、今思うことは結果主義よりプロセス主義がいいということに思い至った。これはゴルフのパットから学んだことだ。

なぜ

結果主義は失敗か成功か、大舞台での結果というような、大きい場合もあるし、約束が実行できたというような小さな場合もあるが、人生の諸問題は何でも結果が付いてくる。数字で表せば1、OR、0の世界である。結果主義的に結果だけ見ていると失敗や成功でも、何を反省し何を喜べばいいのかは分からない。失敗すると失敗したことをくよくよするだけだ。感情的な問題が残る。トラウマというようなこともありうる。しかしプロセス主義的に考えると、確かにうまくいった事柄でも、反省し再考してみれば50点くらいの出来だったと考えることもできるし、失敗した事柄でもプロセスから考えると95点くらいであるというように、いろんな事柄から学んでいき、そのプロセスを見直す事によって前向きに次を考えることが可能だ。だから常に成長していける考え方となる。例えばオリンピックでも勝つべき人が勝てないと、だから駄目なんだ、いつも彼は彼女は大舞台に弱いんだなどと酷評される。その結果だけによってその人のすべてが断罪される。ああ、あいつはだめだ、と。しかし人生はそれで終わるわけでもない。新たなスタート切る事がだれにも必要なのである。その時、結果の事は忘れて、プロセスがどうだったかを考え直し、反省し、次の人生に生かすということがどんな人にとっても重要である。何十回失敗を繰り返しても成長できる。

このビジョン54、という本

この本はまさに私の考えたことが書かれている。正確に言えば私でさえ気が付いたことが書かれていた。全く同じようなことが書かれているので、びっくりした次第である。ピア・ニールセンという女性はアニカ・ソレンスタムというスエーデンの1女性ゴルファーを世界的なそれも世界一のプロゴルファーに育てた人物である。彼女の考え方がビジョン54という思想なのである。この思想に共感したのが宮里藍である。彼女はキャディバッグにもビジョン54と書いていたはずである。(54というのは18ホールを全てバーディで上がった場合のスコアーであるが、それは理想形の数字としてさほど重要な意味があるわけではない。)

何が書いてあるか

「思考ボックス」と「実行ボックス」という考え方を披歴している。

ゴルフであるからショットやパットの前にだれでもこう打とうとか考えるが、一旦「思考ボックス」で戦略なりどうしようかということを考えたら、次は「実行ボックス」に行き、結果を離れて決めたことに集中する、という単純な考え方である。”DO”とそれまで考えてきた「思考ボックス」(実践の方法や戦略など)とを一度切り分けて切断する。実行ボックスでは実行することにすべての注意を集中させて、集中力を高めて”DO”する。彼女は言う。「結果」は自分が支配できるものではない。だから自分が支配(コントロールできる)事をしっかりやろう、という。

他の事も一々の例を出していろんなことは書いてあるが、これが中核である。

はっきり言えばこれだけのことだ。しかしこれは決して馬鹿にできないことだ。ゴルフでも他のスポーツでも科学的解明がどんどん進んできており、技術面だけが議論される。要するにどうやれば飛ばせるか、もっと、1ヤードでも、と。野球でもスピードボールはどのようにしたら投げられる、という技術論だけがある。本屋でゴルフのコーナーに行くと、100パーセントそれだけだ。仕事でもゴルフでもこのプロセス段階と結果のための実践との間に切れ目を作り、分けて考えるということが非常に重要であるが、誰も気が付かないテーマである。ビジネスの成功本も同様である。こうやればいいのだという本質的に技術論的内容が圧倒的に多い。私としてはこのピア・ニールセンの考え方をプロセス主義と呼ぶ。

プロセス主義的構造

思考活動(戦略、PLAN、狙い、方法)→実行活動(集中力、決めたことだけを実践)→結果(成功、失敗)

ここで、プロセスというのは、この思考活動の事である。一般的に言えば準備とか段取りと言われているものだ。

これは何となく,PLAN、DO,CHECK,ACTION(PDCAという)という考え方に似ているのではないか。まさにこの考え方であるが違いがあるとすれば、それぞれの工程を一度切るということだ。結果を意識しながらする,DOではなくて、結果は自分で支配できないのだから、一度切り離して、考えたことを実践するのみ、というので多少ニュアンスは違うかもしれない。またビジョン54のほうはPDCAのように連鎖が延々と続くとは考えていない。それぞれが切り離されているがゆえに、一つ一つの工程そのものが非常に重要となる。

私はなぜこの本に興味を抱くかと言えば

まず、ゴルフのパットやショットの問題からである。また広く多くのビジネスに関係する人で常に結果を求められている人たちにも関係するし、当然私にもこれからの人生を考える上でもこの考え方は重要だと思うようになってきた。失敗ばかりのゴルフを少しでも前向きに考えられないか、失敗だらけの自分の仕事を少しでも良いほうに改善できないか。このテーマがこの本に書かれていた。

ゴルフのほうではこの思考ボックスのように、もしあなたがこれから下りのパットを打つときに何を考えるか。この時にはラインと速度、打つときの強度を考える。そうすれば入る可能性はある、というところが出発点だ。思考ボックスでここは非常に危ないので3パットにならないことだけが戦略である、と考えてもいい。そうやって考えたことを今度は実行する。この時に入る入らないを意識から消し去る。(結果は自分で支配できない、コントロールできない、という思想)打つことだけを、考察した事だけを実践する。この結果入らないとする。すると自分の事前の考察が違っていた、あるいは甘かったということになる。そのために次はこういう状況ではもう一つ考えることを付加していこう、などと反省していく。

しかし通常、一般には、なんて僕は下手なんだろう、なんて運がないのだろう、という感情が起こるのがふつうである。これがゴルフでは一番ダメな感情のほうの一つである。これが結果主義の最悪の所だ。結果は1、or、0である。ここに何か次のための準備になるような良いアイデアが浮かぶ余地がない。私自身そのようなことに気が付いた。これは誰も教えてくれなかった。その種の本もなかった。しかしそのことに気が付いてから、下手だ、下手だと思っていたパッティングを克服してきた。このようなプロセス主義に徹すると自虐的な感情は湧きおこらない。考察が甘かった、浅かったあるいはラインが違っていた、ということになるだけである。この効能はゴルフでは非常に重要な感覚だろう。知る人ぞ知る感覚であり、技術論では解決できないテーマなのである。

最後に自分なりに

せっかくなので仕事に関して言えば、今回の仕事の成果が、あーあだめだった、という嘆息のなかに自分が沈んでいく日々を感じている人は多い。それは業績や人事評価、出世、評判に関係する。はたまた給料にも関係し、やる気という情熱を一つ一つ削いでいく。結果が悪かった時何を思うか、あのパットとなじように不運を嘆くのか。自分の愚かさを嘆き悲しむのか。

しかしプロセス主義的に考え直してみる。自分には可能性はないのか。私のプロセス管理的には自己評点が実は90点だったのではないか、という場合もある。その自分のやるべきことを書いたメモなどを見直してみてこのプロセスはあっていたのかなかったのか、というような反省が可能な資料があればそれを再検討する。そうすると、1,OR、0ではなく、自分にも小さな可能性が残されていることに気が付く。そう考えてみるともう一つ前向きに仕事もできるようになる。そして再スタートさせてくれる。誰にでも。

プロセス主義は柔軟である、柔らかい、ぜひこういう考え方を、スポーツでも取り入れるべきだ。またビジネスの現場でも、そういう見直しによってもう一段味のある苦労人の仕事をさせてくれることになるかもしれない。このプロセス主義という考え方を、困難の中にある方々へ、また自分へのメッセージとしていきたい、と思う。

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