記憶の中のヴェトナム戦争

ヴェトナム戦争全史、小倉貞男、岩波書店、1992年

この本はすでに古いものか、今でも通用しているものかはわからないが、ともかくもヴェトナム戦争というものがどういうものであったか知りたい、記憶にあるヴェトナム戦争と同じなのか違うのか?私の小学生の時代から青年時代にかけての長い間戦争というものはこのヴェトナム戦争であった。「地獄の黙示録」という映画も見た。

サイゴン陥落の時のテレビの映像も見ている。そういう印象とヴェトナム戦争は違うのか、という問題意識がずっとあったが、全体像を知るという事は仕事にかまけて、怠慢なのだろうが、してこなかった。小田実のべ兵連というのもあった。少しは共感したかもしれない。しかしそのころ、学生運動もあって、そういう学生運動からすれば生ぬるいような印象も受けていた。しかし今ではそうは思っていないのであるが。またアメリカの文化的現象というものはこのヴェトナム戦争によって大きく変わっていった。
そういうわけで、とりあえず、この「ヴェトナム戦争全史」を読むことにした。

年代的には1950年から南北統一の1975年までの25年間がヴェトナム戦争だった。なお私が会社に就職したのはこの1975年だった。この後は政治への関心よりも仕事中心となっていった。アメリカではアイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン、ニクソン、4代の大統領がかかわった。政府要人としてはマクナマラ国務長官、キッシンジャー特別補佐官などといったところだ。南ヴェトナムのゴジンジェム、北のホー・チ・ミンなど。ホーは彼は1969年に死去している。その後はレ・ズアンが指導者でヴェトナム戦争を戦ってきた。
ヴェトナム戦争への関心
この本を読んでみると、ヴェトナム戦争がどのように始まったのか、アメリカの介入はなぜか、ホー・チ・ミンを中心とした北ベトナムはどのような国家でヴェトナム戦争でどのような役割を果たしたのか、なぜアメリカに勝ったのか。こういう問題意識が浮かんでは消え浮かんでは消えるが、いろんな事件が起こって行くので単純な問題意識がフェイドアウトしていってしまう。しかしこの点がわからなければこの本を読んだことにはならないだろう。しかし何故アメリカは負けたのかという事も簡単ではない。研究がいるだろう。

私の想定していたヴェトナム戦争とこの本との違いの要点
1、ホー・チ・ミンが最後までいたわけではないこと。1969年に死去、代わってレ・ズアンが指導。逆にいえば偉大なるホー・チ・ミンが死去しても同じ思想を堅持していけたという事が、彼らの力でもあった。
2、ケネディはヴェトナムに深入りするのを避ける言動をしていた。民族自決の思想の持ち主だったようだ。突然の暗殺によってジョンソン副大統領に引き継がれて、方針変更され拡大し、泥沼化していった。
3、ラオス、カンボジア、中国、ソビエトなどとの関係がこのヴェトナム戦争をややこしくしている。これについては私の方は無知だった。またニクソンの中国電撃交渉もこの戦争を危うくしてきた。
4、日本軍の侵攻と撤退、またフランス支配の復活と撤退。このあたりも知らないこと多い。
5、アメリカおよび世界の反戦思想、反戦デモの高まりがこの戦争への影響を与え続けてきた。情報戦争の時代に入った。
6、南ヴェトナムでの民衆、農民の広範な協力体制があった。
7、もう一つ言えば思想が勝った面があった。ホー・チ・ミンの思想がアメリカに勝った。

この本を読んで一番気になるところ、
ドミノ理論というものである。またアメリカのアジアという地域へのどういう認識があったのかという問題。アメリカは日本、朝鮮戦争と立て続けにアジアで戦争を展開した。対日本は核の使用で成功、その後は核は使えなくなったことによって朝鮮戦争では失敗した。朝鮮戦争による冷戦構造の明らかな発生、それが連続的にヴェトナムまで続いている。むしろ、ヴェトナムの方が朝鮮戦争より早く米国とは関係があった。中国、北朝鮮、ヴェトナムの共産化という問題をどのように捉えていたのか。

ドミノ理論は冷戦そのものの考え方である。共産主義国家がヴェトナムで起こればアジア全域がドミノ倒しのようになり共産主義国家が次から次へと成立する、という考え方。恐怖理論である。アメリカは侵害されていないのである。関係ないと言えば関係ないのである。今結果がわかって考えると、結局共産主義がアジア全域を襲ったわけでもないのである。そんなことはせいぜい中国と北朝鮮、ヴェトナムくらいなのである。その間にソビエトは解体した。その中国もヴェトナムも市場開放政策である。資本主義化である。彼らは世界に孤立することを避けている。この理論に結果責任を持った人がいるのだろうか。ウィキペディアによるとアイゼンハワー大統領と、ダレス国務長官により主張された考え方で当時の外交政策にかかわる人たちの間では支配的だったという。しかしペンタゴン・ペーパーズによれば統合参謀本部とロストーとテイラーだけであった、とあるらしい。これはある意味プロパガンダ、またはキャンペーン用語だったのか?これについてはこの本は分析していない。

ここで終了するのは、中途半端ではあるが、一応いったん終了して違うベトナム問題について書かれた本を読んだときにまたこの続きを書きたいと思う。

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