戦後の社会科学という学問を通してわかる日本の民衆像

戦後「社会科学」の思想ー丸山眞男から新保守主義まで、森政稔、NHKBOOKS、2020、3、20発行
この本は、基本的には日本の政治状況、安倍長期政権がなぜ可能であるかという問いである。それは、新自由主義、という言葉に象徴される政治思想が眼前と横たわっているからであるという事だ。
丸山真男についての考え方や批判についても結構導入部としては詳しく取り扱っているが、これはやはり著者が東大の先生であるという事から来ているのかもしれない。また、丸山眞男に関しても今まで出た厳しい批判一辺倒から丸山の新しいパラダイムの創造という事に評価をしていることが目に付く。それは歴史的に、時代に,またその状況によって非常に制約された人間という事もあるし、戦中の資料不足の中での知識という問題もある、とある意味同情的だ。これは大塚久雄に関してはわずか言及、内田義彦に関しては高い評価、高島善哉、平田清明についても同様、ここから類推するに少しこの戦後民主主義の担い手だった人たちに一方的否定ではないという冷静さがうかがえる内容である。全共闘世代より、一世代下の人たちの考え方はまた変化しているということだ。
「丸山眞男の憂鬱」橋爪大三郎著、講談社選書メチエ、2017年9月発行、この本では帯に戦後の虚像を粉砕する、というまたさらにその下に、丸山を根底から批判する、という厳しい宣伝文句がついている。丸山眞男は逆の意味で宣伝に使われているのだが、この方は1948年生まれ。全共闘世代である。)

この本の内容
この本は、戦後の社会科学という学問がどのように変遷してきたかをある意味わかりやすく、簡潔に、てきぱきと語っている。問題は、日本の民衆といい、大衆といい、日本政府に統治されている人たちの考え方、また政府の考え方がどのように変化しているかという事を追求しているのがこの社会科学というテーマだという。どちらかといえばこの民衆といい大衆という人たちの政治的可能性がどこにありうるのか、そういうことを追求していると言える。

その中心問題
世界的に人々は保守化しているという。自分にとってためにならない政府というものを支持してきているように見える。この民衆の保守化という現象、政府の右傾化という現象はグローバルにみられる現象であるが、それが政治学の立場からどのように見えるのか、という問題提起である。特にその中で結論的にいえば新自由主義という概念が非常に重要であるという事である。

その新自由主義についてまとめてみると。
新自由主義の指標として挙げられているコンセプト
市場競争中心(自由競争、負け組の格差問題)
グローバル化(の中の低賃金)
自己責任(福祉の切りつめ)
小さな政府(財政圧迫問題)
民営化(市場での効率化)
一方で国家、政府の介入による市場の立て直しを図るという矛盾
と捨てられない福祉国家と軍事主義

新自由主義についての起源など具体的な説明
この考え方は冷戦、冷戦後、そしてニュウレフトなどの思想を経て出てきているので社会党になろうが自民党になろうが同じ政策をとらざるを得ない。
こういう国家の形態、政府の方針に対して統治される側はなぜこういう体制を支持できるのか。弱者というマイノリティとの格差は増える一方であるが自己責任という思想から抜けられない。軍事主義も自己責任論である。憲法改正論の中の9条問題は現代の自己責任論からくるテーマであり、サラリーマンなどには受け入れやすいのではないか、企業倫理とかガバナンスとかコンプライアンスとかはみんなアメリカ風の市場主義の要請であり根拠はないもののこれには日本の会社は全面的に従ってしまう。誰が言っているのか、どういう原理がそういう決め事を作ったのかは誰も知らないが、従ってしまう。市場主義と自己責任論からくる問題と考えられる。
大衆の側からすれば、自己責任という自分を縛るものがあるので、ネットカフェで暮らしていて不満はあるものの政府が悪いとは思わない。今回のコロナウイルスでネットカフェが閉鎖されるときに寝泊まりのために市がホテルを提供したニュースが流れた。そのホテルをあてがわれた本人は非常に喜んでいて市の政策をありがたがっていた。自己責任だけではなく福祉的な処もある程度あるというのが今の政府である。10万円を国民に渡すという政策もその一環であって、特に学会を支える低層の人たちは政府は信頼できると感じるだろう。要するに自民党に反対の大衆であっても感じることは、与党の民主党系であっても大して政策的な変更が少ないか限られているという事を知っているのではないか、それなら安定政権または玄人の方がいいという事ではないのか。

9条問題に限っていえば、右も左も大それたことはできない。日本は戦争をするのかという、本にも書かれているが戦争をするほどの金はないそうだ。9条問題を自民党もいろいろ言っているが本腰なのかは疑問が残る。今回もコロナの問題で憲法改正などと言っているが、こういう出し方が正当な手続きを踏めない自民党の弱さでもある。また9条が憲法改正となっても、福祉国家的であることはやめられない。中国も今回のウイルスでは福祉国家的対応をしているのと戒厳令的、軍事的側面を両方出している。中国もそういう意味では福祉国家であることは間違いない。こういうことが大衆にとっては保守化しやすい状態ではないか。
新自由主義は根が深くそこからどんな立場の人も逃れられない。

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