
「新世界秩序批判」(帝国とマルチチュードをめぐる対話)
ジョバンニ・アリギ、マイケル・ハート、アントニオ・ネグリ等、以文社、2004年発行
誤読
この本は、ネグリの「帝国」という大著に関してのそれぞれの批判や反批判という本である。特に、ジョバンニ・アリギの「長い20世紀」をネグリが批判していることに関して、アリギが反批判しているのが面白い。それぞれの読解力が問題にもなるだろうが、案外批判する人はその当該の本を真剣には読んでいないことが多い。という事で誤読だらけでネグリはアリギを批判したことになる。そのことをいちいち丁寧にアリギは書いてあるので、ある意味、ネグリのような大家でも簡単に誤読して思い込むという事があるので我々が誤読するのは当たり前と考えるべきだろう。
一番アリギの言いたいことはこういう事のようだ。
まず、一つの重要なこととして、ソビエトの崩壊によって、マルクス主義というものが徹底的に挫折してしまった。そのことによって左翼といわれる人たちが行き場を失い、思想的にも空中分解してしまった。またその後の思想的な深化も望めなくなった。そこでこのネグリがマルクス主義の旗手として「帝国」を引っ提げてさっそうと新鮮に登場した、のでにわかにマルクス主義も活気づいた。彼は世界の見方やマルクス的なものを全く新たな言葉で語ることを始めた。イタリア人だから饒舌である。アリギはそのことは認めている。
もう一つは、ネグリの「帝国」で盛んに言われていることであるが、グローバルな大衆、移民とかそういう人たちがある意味での革命の担い手になる。市民革命なのか選挙的な革命なのかわからないがいずれにせよ、世界の中で圧倒的多数を占める、非支配層が連帯できそして世界市民権を獲得できる可能性があるという事をネグリは言っているが、アリギはそんなに甘いものではない。それは楽観的過ぎてお話にならない、歴史の現実を科学的にみるとそんなことを言えない。特に南北問題からすれば、格差は何十年と縮まってはいない、というようなことを言っている。
そういう批判、反批判の応酬がこの本を面白くしている上に、「帝国」や「長い20世紀」という本を読んだものにとってはよき解説書となる。