岩波文庫 「コモン・センス」トーマス・ペイン著、小松春雄訳 昭和28年発行
(原著は1776年フィラデルフィアで出版)
初めに
この本はロックに引き続き古典中の古典とされている本である。しかし今の今まで読んだこともなかった。何が書いてあるのか。世界史の教科書であるとか、アメリカの歴史の本では、あまりにも必ずこのトーマス・ペインの「コモン・センス」はかならずでてくる。どんな本でも出てくるので案外読んだ人も少ないかもしれない。そう思って読んでみた。
ページ数は岩波文庫の小さな活字ではあるが、100ページないくらいだ。解説のほうが長いくらい。
トーマス・ペインという人は学者でもなければ金持ちでも貴族でもない。親父のやっていたコルセット製造業者である。この事業も独り立ちしたとたん失敗したり奥さんがなくなったり、破産の人生も歩んでいる。ある意味インテリでもなく、たぶん純粋な労働者階級でもないのだろう。クエーカー教徒だった。ただしイギリスに来ていたベンジャミン・フランクリンとの出会いがあった。
概略
簡単に言えばイギリスからの独立がそれこそ「コモン・センス」であるということを大胆に主張したものだ。当時の政治的状況ではいろんな選択肢があった。イギリス政府との和解というのが大勢の意見だったようである。何とかアメリカの実情をイギリス国王に理解させて不当な税金や法律は廃止しようという王への請願運動が主流であった。当時は独立という言葉はあまり出なかったようである。それは大逆罪にあたるというのも一つの理由だが、実状的には多くの民衆はイギリスの植民地で臣民であることを尊重していた。またイギリスという祖国、故郷、母国という言葉に代表されるように、イギリスに逆らう、反逆するという発想はあまりなかった。フランクリンも税金問題でイギリスを訪れていた。これも請願の一種だった。しかしこのジョージ三世はこのフランクリンの申し出を否定した。印紙税条例や茶会パーティ事件やその他の虐殺事件が続いたあげくジョージ三世の悪政という言われるものがたくさん出てきた。また当時フランス革命が勃発しそうな時期でもあり、イギリス国内では王の悪政ゆえのロックの思想のリバイバルが起こっていた。(ペインはこの時アメリカへ来いとフランクリンから誘われる。)
そういう中でイギリス人であった彼が、王制の馬鹿らしさ、愚かさをよくよく知っていたがゆえに、いち早くアメリカは和解ではなく、戦争をしてでも独立が必要だ、と発表した。当時彼は新聞の社説を書いていたようだ。この本は50万部売れた。当時のアメリカは300万人くらいしかいなかったということだから文字を読める人が大半読んだ。ものすごい影響だった。
非常に内容が若々しい。独立の気風にあふれ勢いがあった。多くの人を魅了してやまないわかりやすい文章であった。学者のような持って回った表現はない。また視野の広さ、説得力のある言葉で歴史的にも、世界的にもこの独立のために大事な時期を逃せない、とした。
年表を確認してみよう
1764砂糖条例
1765印紙条例
1769英商品不買同盟
1773ボストン茶会事件
1775アメリカ独立戦争
1776独立宣言トマス・ジェファソン起草
(「コモン・センス」はこの独立宣言の前に書かれ大きな影響を与えたという。)
1789初代大統領ジョージ・ワシントン就任
1789フランス大革命起こる
結論的に、この本を読むと次にはどういうことを考えるか
当時のイギリス政府と王を立場を鑑みるに、今の習近平の第2次文化大革命のような、または共産党独裁のような意味を持っているように見える。人権から見ると不当な法律、またさらに香港、台湾への異常な圧力のかけ方などはこのアメリカの独立時の状況と似ている感じもする。臣民であれという要求は共産党の道徳運動、共富政策に似ていなくもないのである。
こういう「コモン・センス」のような古典はいろんな意味に読めるしある意味現代政治を読み解くカギにもなってくるかもしれない
